今回イギリスへ行くにあたって是非訪ねたい場所があった。ビートルズゆかりのアビー・ロードで、旅行の最終日集合時間の十二時までの自由時間を利用して行って来た。単に横断歩道を渡るためなのだが、ビートルズファンならその意味を分かっていただけるだろう。
バスと地下鉄を乗り継いで目的の場所に着くと既に三人家族がくだんの横断歩道で盛んに写真を撮っている。四十代半ばと思しきお父さんは特に熱心で何度も横断歩道を往復し、靴を脱いで裸足で渡るシーンもカメラに収めていた。(この意味もビートルズファンなら分かりますよね)僕らが近づくとお互い写真を撮りっこしようよとなり、しまいには僕の提案で僕ら親子と先方の親子の四人で横断歩道を渡ろうということになった。聞けば彼らはニュー・ヨークから来たとの事。互いのメールアドレスを交換し、写真の交換を約束して分かれた。
さて、ホテルからアビー・ロードへ向かう地下鉄の中、ちょうど通勤時間で次々に会社勤めの人が乗り込んで来る。車内ではスマホを見る人、ペーパーバックに目をやる人、様々だが新聞を読む人の手元を見ると全ての人が同じ新聞を読んでいる。「メトロ」と言う名のフリーペーパーでこれがなんと76ページもある立派な新聞だ。紙面の五分の四は広告が占めているが、これではまともな新聞はやってられないだろう。
アビー・ロード最寄の駅のスタンドでビートルズのマグカップを購入した。店員は「ちょっと待て」と言って店を出る。何をするのかと思いきや、外に積まれているフリーペーパーを一部持ってきて、それでカップを包装し始めた。昨日の新聞の取り置きならともかく、新聞関係者の端くれとして「ふざけるな!」と内心思いつつ、勤め人が皆同じ新聞を読むイギリスの将来を憂えたのだった。