藤井新王位が最年少二冠を達成した王位戦七番勝負は四局全てをネットの動画サイトで実況中継を見た。将棋や囲碁の実況中継はサッカーやテニスのそれと違って、局面が動くのが実に遅く、ややもすれば退屈してしまう。なにせ一手指すのに数十分考えるのは当たり前、一時間以上二時間近く考える事もあるのだから間を持たすためにスタッフの苦労も大変なものだろうし、実況じゃなくても後日ダイジェストでポイントだけを見れば良いと思う事もある。
しかし藤井二冠の対局の実況だけは一味違う。彼が指した手に対する解説者の反応を見るのが面白いからだ。驚いたり、呆れたり、最後は感動してうなったり。第二局の解説者、郷田九段の反応はどう表現したら良いのだろう。木村王位の攻めが決まったかに見える中盤戦、藤井七段(当時)が苦し紛れの様に打った香車に対して郷田九段は「こんな手で幸せになった人はいませんね」と言った。呆れているようでもあり、悪手であると批判しているようにも見えた。しかし局面が進んで木村優位は明らかなはずなのに、郷田九段にも明確に勝ちになる手順が見つからなかった。最後は「不思議ですねえ」とつぶやくしかなかった。
第四局の封じ手も面白かった。飛車を逃げる一手に見える局面、解説の橋本八段は「飛車を逃げる手を封じ手にするでしょう」と言うが藤井棋聖はなかなか封じない。長時間考え込む藤井棋聖の姿に「え、飛車を逃げない手があるんですか」と驚いたように叫んだ。本当に叫ぶような言い方だった。そして翌日、封じ手は案の定8七同飛車成、長く語り継がれる手になるだろう。
藤井効果とでも言おうか、師匠の杉本八段も調子を上げ、NHK杯トーナメントでは強豪の三浦・佐藤両九段を連破した。藤井将棋、恐るべし。