橋本八段?一体誰?と思われた方が沢山いるのではないか。将棋指しと言えば今をときめく藤井聡太二冠や羽生九段ならご存知の方も多かろうが、橋本崇載を思い浮かべる人はあまりいないだろう。もしいたら余程の将棋ファンか、新聞の社会面に詳しい人に違いない。
四月初め、新聞の三面記事を見て驚いた。橋本八段引退、とあったからだ。まだ38歳の若さで、バリバリの活躍をしている最中だ。老齢で成績が振るわなくなってやむを得ず引退する棋士が殆どなのに一体何があったのだろう。
橋本八段はハッシーの愛称で呼ばれ、NHK杯戦に金髪のパンチパーマに紫色のワイシャツで出た事もあった異色の棋士だが、彼が経営していた池袋の将棋バーを訪ねて直接言葉を交わした事もあり個人的には親近感を持っていた。
まだまだ活躍を期待していただけに一体何があったのか早速ネットを調べた。ユーチューブに彼自身が引退の理由と、今彼が直面する問題について説明し訴える動画が載っていた。話を要約すると、ある日突然妻が生まれて四か月の長男を連れて実家に帰って家の中はもぬけの殻、数日後妻の弁護士を名乗る人から慰謝料と養育費を請求する手紙が来た、との事。「私は暴力も振るってないし、不倫もしていない。なのに愛する我が子を連れ去るのは犯罪ではないか」と彼は訴える。司法当局は可哀そうなシングルマザーを救えという視点しか持たないし、連れ去り被害を正すための戦いに専念する、というのだ。
彼の口からは息子を愛する気持ちが溢れているが、妻の思いを忖度する言葉は聞かれない。将棋は相手が何を考えているかを考えるゲームだ。相手のやりたい手を十分に忖度してそれに対する対応を考える。より正確に相手の意図を把握した方が勝つ。橋本八段には将棋の極意を思い出して名手を発見して貰いたいと思った。