2023年11月28日火曜日

将棋と音楽

 最近では「観る将」と称して将棋を指す事以外の形で楽しむ人達が増えているらしい。だが私の知る範囲では、それはタイトル戦で棋士がおやつに何を食べたとか、昼食のメニューは何であったか、などに注目が集まるような、そんな将棋の本質とは無縁な所への関心で支えられているようだ。まるで音楽に関して演奏家の服装がどうであったか等に注目するかのように。これでは将棋ファン・音楽ファンというより料理ファン・服飾ファンというべきだろう。

勿論料理にも服飾にも素晴らしい要素があるから、それに感動する人がいても不思議ではないが、将棋ファンというからには将棋そのものの素晴らしさに感動する人であって欲しい。音楽の本質が音の流れにあるように将棋の本質は指し手の流れにある。そしてそれは棋譜に記録される。しかし☖4四銀☗2四歩☖同歩☗同飛☖2三歩・・・などと書かれた記号を見て感動出来るのは余程の熟練者でないと無理だろう。楽譜を見ただけで「これは名曲だ!」と感動するのが至難の技であるように。

楽譜だけからでは味わえない感動をもたらしてくれるのは演奏だが、将棋でそれに相当するのが解説だ。かつては大盤解説場まで足を運ばないと聞けなかった解説が今ではYouTubeで手軽に聞ける。かつて高い料金を払ってコンサートに行くしかなかった音楽がレコードやCDで手軽に聞けるようになったように。

そして音楽では演奏家が曲の解釈を巡って作曲家同様に独自性と創造性を発揮し「モーツァルトの40番はブルーノ・ワルターだよね」「いや僕はカール・ベームの方が好きだな」なんて会話が成立する。将棋においてもYouTuber達が解説の巧拙を競い合いその独創性を評価されるようになったら将棋鑑賞も趣味として一人前になるだろう。

2023年11月21日火曜日

将棋鑑賞

 月刊誌「将棋世界」の12月号は藤井八冠誕生を特集し、ベテラン棋士のコメント等が掲載されたが、その中で谷川十七世名人のコメントが1017日の当コラムで書いた事とそっくりで大変嬉しかった。以下に引用するので対照してみて欲しい。

「最後の逆転には驚きました。第3局も逆転でしたが、あの将棋は永瀬王座が正解手を指しても、まだ難しいところがあった。でも、第4局に関してはもう難しいところがなかった。ちょっと信じられない逆転です。それは、それまでの難しい局面の中、永瀬さんがずっと受け続けていた技術的なプレッシャーのせいだと思います。勝ちになってから藤井さんがずっと下を向いていたのが印象的でした。藤井さんにとっては、不本意な勝ち方だったのだと思う。それが、局後の「まだまだ実力が足りない」というコメントにつながったのだと思います。」

王座戦第3局も第4局も大逆転だったが、その意味合いはだいぶ違う事、第4局の最後藤井がずっと申し訳なさそうな様子だった事、永世名人が私と同じ所を見ていたなんて、とても誇らしく思った。

私自身、残念ながら棋力の方は左程自慢するほどではないのだが、将棋を鑑賞、評価する能力については少し自信がついた。「趣味は将棋です」と言えば多くの場合将棋を指す事であって、棋力は如何ほどかと聞き返される事が多い。しかし「音楽が趣味です」と言った場合実技より鑑賞に重点があり、「楽器は何をやりますか」という質問より「どんなジャンルが好きですか」とか「作曲家は誰が好きですか」という質問の方が自然の様に思う。

将棋を指すのは楽器を演奏するように難しいが、名曲を楽しむ様に、名局を楽しむ事は比較的簡単だ。将棋鑑賞が趣味としてもっと定着すればプロ棋士にも励みになるだろう。



2023年11月20日月曜日

 

エリザベス女王の国葬の時の隊列はこんなだったの❓こんなの、もし北朝鮮だったら全員死刑だよね。やっぱイギリスは良い国かな❓

2023年11月14日火曜日

外相会合

 G7外相会合が東京で行われた。一列に並んだ記念撮影には女性が4人、男性が4人。外相という重要ポストも遂に男女同数になったのかとの感慨と同時にG7なのにどうして8人?との違和感を持った方はいないだろうか。プラス1EUからの代表がいるからだが、その正当性はあるのだろうか。



本文記事を読んでも七つの国の思惑や立場の説明はあるが、EUとしての意見は書かれていない。軍隊も持たなければ、恐らく独自の予算もなく自らの意思で財政援助を出来るとも思えない。しかもEUの閣僚は選挙の洗礼を受けていない。そんな立場で一体どんな責任と役割が果たせるのか。

彼等要人の事だ、ホテルは超一流の最高額の部屋に泊るだろうし、三度の食事も庶民には垂涎のものが毎食提供されているのだろう。その費用は誰が負担しているのか。各自自前なら良いが、恐らく招待国の我々の税金が使われている。七つの国から来た人の費用は逆に日本の大臣がその国主催の時にはお世話になるからツーペイで良いのだろうが、EUだけはいつもお客さんで招待する立場になる事がない。彼等の費用だけはEUに請求書を回したい。

そもそも西欧こそが正義を代表しているかのような顔をして平然としているのが気に喰わない。ロシアがウクライナに侵攻した時には「力による現状変更は許さない」などと息巻いていたが、ちょっと前にパレスチナの地にイスラエルという新しい国を作ると言う、まさに力による現状変更をやったのはどこのどいつだ。

9月末の国連総会の一般演説でインドのジャイシャンカル外相は「一部の国が指針を決め、他国がそれに従うことを期待する時代は終わった」と言った。まさにその通りだと思う。この人、奥さんは日本人だとか。

G7EUの代表を呼ぶくらいなら、国連の代表を呼んだらどうか。

2023年11月7日火曜日

独楽吟

  たのしみは空暖かにうち晴れし春秋の日に出でありくとき


11月だというのに先日のテニスではメンバーの多くが半袖半ズボンのいで立ちだった。歴史的な暖かさだそうだが、風は爽やかだし、日陰に入れば十分に涼を取れる。運動不足を実感した時など、用はなくとも辺りを一回りして来ようかという気持ちにもなって来る。

巻頭の歌は橘曙覧(たちばなあけみ)という歌人・国学者の作で、「たのしみは」で始まり「とき」で終わる「独楽吟」と総称される52首の連作の中の一首である。橘曙覧は江戸後期に今の福井市に生まれ、本居宣長の流れを汲む国学者として勤王の志を持っていた。時の藩主、松平春嶽に見いだされ出仕して古典を講義するよう勧められるが固辞し清貧を貫いた。その貧しい様子は

たのしみは銭なくなりてわびをるに人の来たりて銭くれしとき

たのしみはまれに魚烹て児等皆がうましうましといひて食ふとき

などの歌に見られる。魚も滅多に買えなかったらしい。

明治に入って正岡子規は曙覧を絶賛し、「実朝以降たった一人の歌人」と言ったとか。しかしあまりにも国粋主義的な傾向からその後しばらく忘れ去られるが、再び脚光を浴びるのは平成六年、天皇訪米の際クリントン大統領が独楽吟の中の一首を持ち出した時だった。

 たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時とき

曙覧が生まれ生涯を暮らした福井市には現在「橘曙覧記念文学館」がある。実は二か月程前、埼玉から出雲に帰る途中福井を経由したのだが、その時はその存在を知らなかった。知っていれば必ず立ち寄ったのに。事前に福井県の東京事務所から観光資料を取り寄せていたのだが、その中には橘曙覧記念文学館の記述を発見できなかった。なんとも残念。

福井をあげてもっともっと自慢して欲しかった。