2023年11月7日火曜日

独楽吟

  たのしみは空暖かにうち晴れし春秋の日に出でありくとき


11月だというのに先日のテニスではメンバーの多くが半袖半ズボンのいで立ちだった。歴史的な暖かさだそうだが、風は爽やかだし、日陰に入れば十分に涼を取れる。運動不足を実感した時など、用はなくとも辺りを一回りして来ようかという気持ちにもなって来る。

巻頭の歌は橘曙覧(たちばなあけみ)という歌人・国学者の作で、「たのしみは」で始まり「とき」で終わる「独楽吟」と総称される52首の連作の中の一首である。橘曙覧は江戸後期に今の福井市に生まれ、本居宣長の流れを汲む国学者として勤王の志を持っていた。時の藩主、松平春嶽に見いだされ出仕して古典を講義するよう勧められるが固辞し清貧を貫いた。その貧しい様子は

たのしみは銭なくなりてわびをるに人の来たりて銭くれしとき

たのしみはまれに魚烹て児等皆がうましうましといひて食ふとき

などの歌に見られる。魚も滅多に買えなかったらしい。

明治に入って正岡子規は曙覧を絶賛し、「実朝以降たった一人の歌人」と言ったとか。しかしあまりにも国粋主義的な傾向からその後しばらく忘れ去られるが、再び脚光を浴びるのは平成六年、天皇訪米の際クリントン大統領が独楽吟の中の一首を持ち出した時だった。

 たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時とき

曙覧が生まれ生涯を暮らした福井市には現在「橘曙覧記念文学館」がある。実は二か月程前、埼玉から出雲に帰る途中福井を経由したのだが、その時はその存在を知らなかった。知っていれば必ず立ち寄ったのに。事前に福井県の東京事務所から観光資料を取り寄せていたのだが、その中には橘曙覧記念文学館の記述を発見できなかった。なんとも残念。

福井をあげてもっともっと自慢して欲しかった。

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