NHKのラジオ番組にカルチャー・ラジオというのがある。歴史、芸術、文学、科学の四つの分野で週に一回三十分の講和が三ヶ月毎にテーマを変えて放送される。文学は木曜日だが何回か前にボブ・ディランが取り上げられた。その時は最初の二回ほど聞いてあまり面白くなかったので以後聞くのを辞めてしまったが、今から思えばもう少し辛抱して聞いておけば良かった。
十月から鴨長明がテーマになっているが先月まではマーク・トゥエインだった。これは面白かった。今回のボブ・ディランのノーベル賞受賞は人種差別撤廃運動への影響も受賞理由の一つのようだが、この分野ではマーク・トゥエインの書いたものの方が心に響く。興味ある話題があるのでご紹介しておく。
マーク・トゥエインの代表作の一つに「ハックルベリー・フィンの冒険」がある。主人公のハックは凶暴な父から逃れるために身を潜めている時、逃亡奴隷のジムと出会う。社会に背を向けるという共通の環境にある二人は友情を育みながら北部の自由州を目指して筏で川を北上する。だが、自由州が近づくにつれてハックは自責の念に捕らわれる。それは何と、ジムを告発しなければならないという思いだ。当時南部には逃亡奴隷をかくまったり援助することは罪だという法律があった。それを知っているハックは今ここでジムを当局に突き出さなければ自分が永遠に罪人の刻印を押されてしまうと悩むのだ。ハックのそうした心を察知したジムの態度がまた涙を誘う。
この作品には普段はこよなく親切でやさしく信心深いおばさんが、こと黒人に対しては冷酷無比な態度をとってしかもそれが正義であると思っているような場面もあるようだ。ある社会環境では世間的良識が必ずしも人間の善を反映しない。常に心すべきことだろう。
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