浦上玉堂という人がいる。江戸後期の文人で、備前池田藩の支藩の君主側近として藩政にあたっていたが、大目付役を罷免されたのをきっかけに二児を連れて脱藩。全国を遊歴しながら琴、絵画、詩作を楽しんだ。その絵は水墨画でありながらなかなか賑やかな絵で独特の雰囲気がある。数週間前NHKの日曜美術館での放送からの引用になるが以下のような事を言っていたそうだ。
人は名誉と利益を楽しむが 私は酒と琴とを楽しむ
人は富と高い身分を好むが 私は酒に酔って詩を詠うのを好む
粗末な食事でも空きっ腹よりいい おんぼろな家でも露天よりいい
人生満足するということを知らなければ煩悩がなくなることはない
お金や名誉は要らないよ、と言いたいらしいが、ここに友情や愛情など人との交わりの喜びについての言及がないのはどうしてだろう。
私個人も特別豪華で綺麗な衣装に身を包みたいとは思わないし、特別贅沢な美食を楽しみたいとも思わない。衣類は寒さから身を守る事が出来れば十分で、食事は栄養失調にならなければそれでいい。それより何より同性であれ異性であれ敬服・憧憬・素敵の言葉が似合う人物に出会え、しかもその人が誠意を持って談笑に応じてくれたらそれ以上の喜びはない。
そうした出会いはお金では買えないし、誠意を基盤とした関係を構築するにはお金はありすぎるとかえって邪魔になりそうだ。お金は凍え死にしない、飢え死にしない程度にあればいい。出来れば酒に酔って詩を詠うくらいあればそれに越したことはないが。
浦上玉堂が二児を連れて脱藩した時既に奥さんは亡くなっていた。彼の異性を含めた交友関係は全国遊歴の中で満足できたのだろうか。それとも琴棋書画を通じて時空を超えた交流を楽しんでいたのだろうか。
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