将棋界の話題がこんなに大きく取り上げられるのはいつ以来だろうか。プロがコンピュータに負けた時も囲碁ほどの騒ぎではなかったように思う。話題の主、藤井四段の強さは素人の私も驚く程である。
竜王戦の本戦トーナメントへの出場を決めた六組の決勝戦は一日中生放送を見てしまった。相手の近藤誠也五段も昨年度は勝率第五位の強豪だ。そんな相手に対し、序盤の小さなミスを咎め、後はジワジワ有利を拡大して押し切った、まさに横綱相撲のような勝ち方だった。単に勝ち星を積み重ねているだけでなく、圧倒的な勝ち方こそ藤井四段が話題となる理由だ。NHK杯将棋トーナメントで戦った千田六段も昨年度勝率三位の猛者だが、局後の感想戦では藤井四段に対し上位者に伺いを立てるような口調で話していた。
こんなに勝ちまくっている藤井四段だから、プロになる前はもっと勝っていたのかと思えばそうでもない。四段になる前の三段リーグでは十三勝五敗だった。十八回の内、五回も負けていたのだった。(ちなみに十三勝の中には出雲のイナズマ我等が里見香奈三段に勝った星も含まれている)
将棋のプロの世界は若い人ほど強い。NHK杯戦を見ていても、年配の八・九段と若い四・五段が対戦すると大体が四・五段の方が勝つ。段位の高さは今の強さではなく、かつて強かったという実績を示しているのだと思う。藤井四段の三段リーグでの対戦成績は将棋界の若手の競争の激しさを物語っていると思う。
十四歳の藤井四段。十四歳と言うと石川啄木の「己が名をほのかに呼びて涙せし十四の春にかへる術なし」という歌を思い出す。藤井四段もこれから恋もし、競馬などの賭け事の誘惑にも曝されるだろう。そんな外界からの刺激に負けず将棋一筋に大名人への道を歩んで欲しいと願う。