2017年5月30日火曜日

藤井四段

将棋界の話題がこんなに大きく取り上げられるのはいつ以来だろうか。プロがコンピュータに負けた時も囲碁ほどの騒ぎではなかったように思う。話題の主、藤井四段の強さは素人の私も驚く程である。
竜王戦の本戦トーナメントへの出場を決めた六組の決勝戦は一日中生放送を見てしまった。相手の近藤誠也五段も昨年度は勝率第五位の強豪だ。そんな相手に対し、序盤の小さなミスを咎め、後はジワジワ有利を拡大して押し切った、まさに横綱相撲のような勝ち方だった。単に勝ち星を積み重ねているだけでなく、圧倒的な勝ち方こそ藤井四段が話題となる理由だ。NHK杯将棋トーナメントで戦った千田六段も昨年度勝率三位の猛者だが、局後の感想戦では藤井四段に対し上位者に伺いを立てるような口調で話していた。
こんなに勝ちまくっている藤井四段だから、プロになる前はもっと勝っていたのかと思えばそうでもない。四段になる前の三段リーグでは十三勝五敗だった。十八回の内、五回も負けていたのだった。(ちなみに十三勝の中には出雲のイナズマ我等が里見香奈三段に勝った星も含まれている)
将棋のプロの世界は若い人ほど強い。NHK杯戦を見ていても、年配の八・九段と若い四・五段が対戦すると大体が四・五段の方が勝つ。段位の高さは今の強さではなく、かつて強かったという実績を示しているのだと思う。藤井四段の三段リーグでの対戦成績は将棋界の若手の競争の激しさを物語っていると思う。

十四歳の藤井四段。十四歳と言うと石川啄木の「己が名をほのかに呼びて涙せし十四の春にかへる術なし」という歌を思い出す。藤井四段もこれから恋もし、競馬などの賭け事の誘惑にも曝されるだろう。そんな外界からの刺激に負けず将棋一筋に大名人への道を歩んで欲しいと願う。

2017年5月23日火曜日

週刊誌

大社町の竹野屋に関する情報に接した。「竹内まりや 絶対に廃業はイヤ 貫いた出雲愛」という週刊女性の記事だ。読んで、そんな事があったのかと思ったのだが、別にこの週刊誌を好んで買ったわけではない。スマホやタブレット端末を対象としたあるサイトがあって、月四百円で相当数の雑誌が読めるというのでその一ヶ月無料お試し期間にこの見出しに遭遇した次第。
四百円と言えば週刊誌が一冊買えるかどうかという値段だ。その値段で、週刊朝日、サンデー毎日、週刊文春、週刊新潮、週刊ポスト、週刊現代などは勿論、東洋経済、エコノミストからフライデーやフラッシュなどの写真週刊誌までがバックナンバーも含めて読める。全部で百八十誌以上という参加雑誌一覧を見ると八割くらいが手に取った事もないような雑誌だった。あと二週間で無料お試し期間は終わるが、当然継続したいと思っている。
情報を提供する雑誌社の思いを忖度すると、このサイトは一種の販促ツールとして考えているのではないか。どの雑誌も表紙をめくると必ず「この内容は本サービス専用コンテンツで、紙版とは一部内容が異なります。掲載されない記事、写真、ページがあります。」という断りが書いてある。ここで読んで、もっと別の内容を知りたければ本誌を買ってくださいね、というのが出版社の本音か。特に性的に過激な写真などは全て省かれている。
幸い毎週楽しみにしていたコラム記事は全て網羅されているから、これで市立図書館へ行って順番待ちをする必要も、駅前の本屋で拾い読みをする必要もなくなった。
ただ、問題はこれに費やす時間が長くなってしまう事。今まで見向きもしなかった女性週刊誌までページをめくってしまう。まあそれで女性の関心事が分かっていいとも思うのだが。

2017年5月16日火曜日

五輪経費

三年後の東京オリンピックの費用負担がいろいろ問題になっている。その件に関連してちょっと気になることがあったので書き留めておく。
島根県では放映されていないのが残念だが、関東地方では地上波デジタル放送のあるチャンネルで放送大学の講義が放映されていて、その一つに「世界の中の日本」と題する近代史の講義がある。
スターリンのソ連とナチスドイツからの強い影響下で第二次大戦前後フィンランドが取った行動や、ノルウェーがイスラエルとパレスチナの間を取り持ってオスロ合意を達成した背景などが紹介されて大変面白い。そのノルウェーで最近起きた事への言及があった。
2022年の冬のオリンピックの開催国に立候補していたノルウェーが2014年に立候補を辞退した、というのだ。ソチ五輪では六兆円の費用がかかったが、既存施設が既にあるノルウェーではその十分の一程度の費用での開催が可能では、との目論見で立候補したらしいが、思わぬ出費に断念したらしい。
その出費とは国際オリンピック委員会から出された以下の要求だった。
 ・委員一人一人に運転手付きの車を用意する事
 ・委員一人一人にただで使える携帯電話を用意する事
 ・車のために交通規制をして車が自由に走れるようにする事
 ・国王とのカクテルパーティを用意する事
 ・最高の食材の食事を用意する事
 ・ただのバーを用意する事
 ・それらの費用は全てノルウェーが負担する事
舛添さん並みのセコさで、ノルウェーがそんなアホな!と思ったのも頷ける。ノルウェーに要求された事が日本に要求されていないとは思えない。報道はされないが、日本の場合こういう費用を負担するのは国なのか都なのかはたまた組織委員会なのか。

2017年5月9日火曜日

忖度とヨイショ

今年は忖度という言葉が流行語大賞を貰いそうだ。思わぬ使われ方をして忖度にとってはいい迷惑だろう。森友学園事件の関係者を見るとむしろ「ヨイショ」という言葉の方が似つかわしい。
「ヨイショ」は俗語でまさか広辞苑が採用しているとは思わなかったが、ちゃんと載っていた。「相手の機嫌をとって、おだて上げること」で「上役にーする」という用例があった。
財務省の度を越した親切さ、国有財産を破格の条件で民間に払い下げる配慮、どれも上役の覚えを目出度くしたいがためのヨイショでしかない。様々な過程で一人も「そりゃおかしいよ」と言う気骨のある人間はいなかったのだろうか。仮に総理婦人から配慮を求められたとしても「鶏が先か卵が先か程度の事はなんとか融通を致しますが、国民の財産を預かっている身として不当な条件で払い下げるわけにはいきません」と毅然と対応すればよかった。それでもまだ上司から圧力が掛かってくるようなら、その時こそそれを公にして「こんな無理難題がまかり通っていいのか」と声を上げればいい。出世に影響はあろうが、命までとられるわけではあるまいし、その方がずっと格好いいのに。
格好良さで言うなら、政権側も変な忖度から国有財産を不当に扱った役人を国家に損害を与えた咎で処罰すれば格好良かった。もっと格好良いのは大国に対して自説を堂々と述べることだろう。

安倍首相はアメリカにヨイショしてトランプ大統領にベッタリだ。朝鮮半島有事の際に一番影響を受けるのは我が国なのだからあらゆる選択肢と言ってもまず第一に平和的解決を望むとどうして言えないのか。フィリピンのドテルテ大統領だって言ってる事だ。憲法が国際紛争の解決に武力の行使を禁んじている事をまさか忘れたわけではあるまいが。

2017年5月2日火曜日

展覧会行脚

来る五月三日が新憲法の施行から七十年の節目となる事を記念して、国立公文書館では「誕生日本国憲法」と題して当時の資料を展示する特別展が開かれている。幣原内閣が憲法問題調査委員会を設置してから、GHQとのやり取り、国会審議を経て発布、施行、広報に至る様々な資料が展示されていて面白かった。
中でも白洲次郎がホイットニーに送った書簡に目が止まった。日本側の試案が中途半端な事に業を煮やしたGHQに対して、白洲が日本側の事情を説明するために送ったものらしい。日付は1946215日。21日に毎日新聞が「政府試案」をスクープして報道し、それを見たマッカーサーがそれでは駄目だとGHQ民政局に三原則を示し、それを基に民政局が作成した憲法草案が13日に日本側に手交される。それを受けての書簡だが、白洲は手紙の下に凸凹の山を十個程描き「貴方達は飛行機で一足飛びに目的地に行けるかも知れないが、日本はジープで地道に行くしかないんだ」という様な絵を描いている。私が興味を持ったのは山を飛び越えて引かれた矢印に「your way」とあるのは良いとしても、山の下をくねくねしている矢印に「their way」と記されていた事だ。白洲にとって日本政府は「our」ではなかったのだろうか。
公文書館を出ると隣に国立近代美術館がある。そこでは楽茶碗の展覧会をやっていた。初代長次郎から始まって十五代吉左衛門、十六代篤人に至るまでの作品が展示してある。吉左衛門も良いかも知れないがやっぱり楽茶碗は寡黙さが魅力だよなあ、などと思いながら常設展示場へ行くと藤田嗣治の戦争画があった。アッツ島の玉砕や、サイパン陥落の様子を描いたもの。陸軍の要請で描いたとの事だが、私には反戦の絵にしか見えなかった。