2017年10月24日火曜日

節用集

同級生からある古い本を譲り受けた。お父上の遺品を整理している中で出てきたものだとの事。小ぶりな糸綴じされた和本で、厚みはあるが携帯用のものと見えた。一部水に濡れた跡があり判読できない箇所もあるが奥付を見ると明治十七年の発行だ。最初の数頁は一般教養に関する事が書いてある。例えば県と旧国の関係などで島根に因幡も伯耆も含まれていた。
大部分を占めるのは「い一」から始まる字の羅列である。「い一」には伊、以、位、意など、続く「い二」には忌、色、出、入など、「い三」は未、祝、祈など、「い四」は戒、警、禁などがそれぞれ振り仮名付きで載っており、それが最後の「す」まで続く。頁を繰るうち袋綴じの版心に「節用集」との文字を発見した。ああ、これが節用集というものなのか。
日本国語大辞典によれば節用集とは「室町中期の用字集、国語辞典。実用的な教養書、雑学集」とある。辞典といえば言葉の意味、語釈を調べるものという思い込みがあるが、それは明治に西洋文明が入ってからの事らしい。それまでは漢字でどう書くかを知るためのものだった。並び方も今の常識とは随分と違う。第一音はイロハ順で、次に音数で並べる。これを「イロハ仮名数引き」と言うらしい。「イマシメ」を漢字でどう書くか知りたい時には「い四」から探す、という訳だ。もし純粋に全てイロハ順に並んでいたら「マツリゴト」なんて字を探すのは大変だったろうと思うが、昔の人は簡単にイロハ順が頭に浮かんだのだろうか。
そういえば最近の若い人の中にはアイウエオ順で辞書を引くことが出来ない人もいるらしい。知らない言葉があればパソコンに向かってその字を打てば良いのだから「に」と「む」がどっちが先にあるのか知る必要もないのだろう。時代は変わる。

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