東京から京都に向かう夜行バスがトイレ休憩で止まったが、用を済ませてしばらく時間が経ってもなかなか出発しようとしない。不審に思っていると車内アナウンスが流れた。「盗難事件が発生しました。しばらくこちらで停車します。」
当初は誰かがトイレのどこかに財布でも置き忘れ無くした程度の事件かと思った。ならばもう窃盗犯はどこかに行方をくらましているだろうし、被害者には申し訳ないがそのためにバスの全員が迷惑を蒙る事もなかろう、などと苛立ちを感じる。そうこうするうちに実は不審人物がいてその人が財布を盗んだらしいとのアナウンスがあった。パトカーがやってきて、運転手らと何か話し始めた。停車してから一時間半も経っただろうか、一向にらちがあきそうにない事態の推移に苛立ちながら運転手に聞いた。「まさか被疑者がこのバスの中にいるわけではないでしょう。」と。だが答えは意外にも「実は・・・」
バスの外に出てみると、若い二人の男女が警察官の聞き取りに応じている。女性の方は泣きべそをかいているようだった。男性は堂々とした態度で、一見すると女性の同伴者で動揺する彼女を労わっているかとも見えた。まさか女性盗みを働くとも思えないが・・・男性はその後も何ら悪びれることなく一人で警察官と会話を交わす姿が見えた。
三時間経った頃ようやく捜査が終わったらしい。べそをかいていた女性が乗り込んできた。運転手の説明によると被疑者にはここで降車してもらい、運賃を後に払い戻すとの事。バス内に件の男性の姿はない。被害者は他にも二人いたらしい。夜間網棚のカバンを狙った犯行。女性は旅行の際、くれぐれもご注意あれ。
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