2020年5月19日火曜日

模式図

専門家の言う事に疑義をはさむとは甚だ恐れ多い事だ。が、ある分野に於ける知識や経験の豊富さと情報を処理したり判断したりする能力とは別問題だと思うから敢えて疑問を述べる。
十五日の朝刊にも掲載された「今後の都道府県別の対応」というグラフは実に面妖だ。縦軸に「新規感染者数」横軸に「時間」が取られ、三本の直線と一本の曲線からなる。三本の直線の内二本は緩やかな右肩上がりに描かれ、一番上の線には「医療提供体制の限界」と注記されている。
はて、医療提供体制とはこのように緩やかに漸増的に拡大する事が可能なのだろうか。医療提供体制が具体的に何を意味するのか、おそらくは病院のベッド数、医療従事者の人数、人工呼吸器の数などだろうが、そのいずれもがそんなに簡単に増やす事が出来るとは思えない。敢えて図示するとすれば長い水平線が段階的に上がって行く形しかないのでは。漸増的拡大は単なる希望的観測か。
もっと面妖なのは、この限界と新規感染者数が比較の対象となっている事だ。医療体制が限界にあるかどうかを規定するのは患者数しかなかろう。いわば感染者の累計(退院した人や軽症者を除く)であって新規感染者数では決してない。
尾身氏は説明に当たって盛んにこれがイメージ図模式図である事を強調していたが、いかに模式図とは言え論理的正鵠さを欠くのは当事者意識の欠如を思わせる。最前線で人の命を預かっていれば具体的な細かい所までが気になって、観念的な抽象論で満足している訳にはいくまい。大阪モデルが重症病床使用率という具体的な指標を示したのとの対比が印象的だった。
参謀本部の希望的観測や観念論と最前線の現実との齟齬が悲劇を生んだ先の大戦の不幸がまた脳裏をよぎった。

0 件のコメント:

コメントを投稿