前回トラベルとトラブルの同一語源説に疑問を呈したのは言語学に基づく論証がなかったからであり、もしあればそれに異を唱える積りは毛頭ない。また我々日本人がbとvの違いやlとrの違いを良く聞き分けられない事を悲観する積りもない。世界にはhとkの違いを聞き分けられない人達もいるのだから。
音の違いを聞き分けるのは長年の生活習慣に依存するのであり、個人の資質とは無関係だと思う。お隣の韓国には「カ」と聞こえる音が二つあり、一つは「ka」でもう一つは「kka」とでも表記しようか、彼らには明確に違うようだがいくら注意して聞いても識別できない。「プ」も「pu」と「ppu」があるが、前者はむしろ「ブ」に近い音らしいのは釜山の英語表記がBUSANである事からも分かる。
以下はパリのレストランでの体験談。本場のエスカルゴに舌鼓を打っていると、バイオリンとアコーディオンを抱えた二人組の音楽師がやってきた。チップを弾んだら喜んで、リクエストはないかと言う。ジャポネソングを、と英仏チャンポンの変な所望が通じて荒城の月を演奏してくれ、終わると歌詞を教えてくれと言う。ゆっくり良く聞き取れるように歌詞を言うと彼等のメモには「Alukolono Ananoyen」と書かれている。フランス人にはhの音は聞き取れないから仕方ないかと思ってそのままにしておいたが、「昔の光」が「Mukashino Ikali」になるに及んで「怒り」は困ると思って「『イ』じゃないよ『ヒ』だよ『ヒ』」とヒを強調して発音したら彼等のメモは「Kikali」になっていた。彼等にはイもヒもキも同じに聞こえるらしい。
もしフランス人が「ハッパとカッパが同じなのはどちらも緑だからか」などと推論したら、それは違うよ、と教えてあげなくてはいけない。
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