2022年7月5日火曜日

アンゲラ・メルケル:トライアングル第773回

 先日NHKでメルケルさんのドキュメンタリーを放送していた。トランプ前大統領に言及する時には決して「トランプさん」などとは呼ばないが、一国の前首相をさん付けで呼ぶなんて女性に対する偏見があるからではないか、とウーマン・リブの人達からは非難されそうだ。だが、そういう事に目くじらを立てないところにメルケルさんの真骨頂があると思う。今回は彼女の誠実さに対する親しみと敬愛の印しとしてお許し願う。

番組の白眉は2005年彼女が初めて首相に選ばれた時の記録映像だった。選挙前は野党だったメルケルさんが率いるCDUは第一党にはなったものの過半数は取れず、当時のシュレーダー首相が党首のSPDと連立を組む事になった。その時の交渉の様子が討論会としてテレビで公開されていたのだ。シュレーダー氏はメルケルさん(当時51歳)の経験不足を軽く見て「学校の生徒会じゃないんだから」と、連立政権の首相は俺に決まってるだろう、みたいな発言をした。女性に対する偏見が随所に垣間見られた。

ガラスの天井などを持ち出す人なら、こめかみに青筋を立てていきり立つだろう。だがメルケルさんは冷静に反論した。「まるで選挙で勝ったかのような発言にとても驚いてます。いいですか、選挙で第一党になったのは私たちの政党なんですよ。」と。その発言には「男だから、女だから」という発想は微塵もない。男女平等が当然の前提としてあるのだ。

あの後シュレーダー氏はあの映像が流れる度に赤面し、自己嫌悪に苛まれたに相違ない。

ジェンダー・フリーにしろLGBTQにしろ、差別をなくす一番の近道は、差別撤廃を声高に叫ぶ事より、差別のない事を前提に堂々とした態度で自分の考えを冷静に理路整然と述べる事にあるのではないかと思った次第。

0 件のコメント:

コメントを投稿