NHKの「百分で名著」はアリストテレスのニコマコス倫理学を取り上げ、彼の「友愛」に関する考え方を紹介していた。曰く「友愛があれば、正義をことさら必要としない。」
その二週間程前には同じくNHKの「映像の世紀・バタフライエフェクト」で第一次大戦前のパレスチナの様子が描かれ、そこではアラブ人家族の結婚式に隣人のユダヤ人が招かれ、共に祝宴を楽しむ等、仲睦まじく暮らす様が映し出された。そして今、アラブ人とユダヤ人のかつての友愛は壊され、互いが自らの正義を主張し合う悲劇が繰り返されている。
「映像の世紀」のタイトルは「砂漠の英雄と百年の悲劇」だった。砂漠の英雄とはアラビアのロレンス、百年の悲劇とは彼がエージェントとして仕えたイギリス政府の三枚舌外交が原因で生まれたパレスチナの悲劇を言っている。
第一次大戦前、パレスチナの地を統治していたオスマン帝国は多民族国家で、宗教にも寛容な政策を取っていた。その帝国を倒すため、イギリスは域内に住むアラブ人やユダヤ人に反乱を呼び掛ける。反乱の報酬としてアラブ人にはアラブ人の国を約束し、ユダヤ人にはユダヤ人の国を約束し、その上にあろうことかフランスとは英仏による分割を協議していたと言うから開いた口が塞がらない。アングロサクソン人には「至誠に悖るなかりしか」という発想がないらしい。尤も当のロレンスは自分がアラブ人達を騙す事になったのを恥じ、国家からの叙勲を辞退したそうではあるが。
それにしても「正義」とは何と空虚な言葉だろう。戦争はいつも双方の正義の御旗の元戦われるが、それは結局武力に勝る側の冠に過ぎず、その下には醜い欲望が隠れている。パレスチナの友愛を壊したイギリスが今更人道や正義を振りかざすのも見ていて虚しい。