東京目白台にある細川家ゆかりの永青文庫で春画の展示会があるというので行ってきた。十八歳以下の方は入場出来ません、と大書してある入口のあたりから混雑が始まっている。中年の男性が鼻の下を長くして来るのは分かるが、総じて女性の方が多い印象で、立派なお召し物を身にまとい「ホ、ホ、ホ」と言う声が似合いそうな御婦人方の団体がいたりするのには違和感を禁じえなかった。
この展示会のチケットには「世界が、先に驚いた」とのキャッチコピーが載っている。そう、大英博物館で同様の展示会があり好評を得たというのが一つのうたい文句になっている。蓋し今回のこの人気ぶりもその権威によるところが大きいのだろう。
だがちょっと待って欲しい。英国人が日本の春画を見るときの思いと、我々が見るときの思いとでは随分違うのではないか。例えばマリー・アントワネットが輿入れの際マリア・テレジアから渡された夜の心得などがあったとして、それを日本で展示するのであれば異文化への興味と言った観点からの鑑賞も可能だろう。大英博物館が驚いたのはワビサビの日本文化との落差であって、「性器の大胆で生々しい表現の一方、毛筋や着物の文様など繊細な描写も見どころ」なんて事を彼の国の紳士淑女達も思ったかどうかはなはだ疑わしい。
権威が人を呼ぶ、といえば二年前直木賞を取った「ホテルローヤル」を思い出す。この本は北海道のある町のラブホテルを舞台に男女の秘め事を描いたものだが、作者の出身地である釧路でのサイン会には多くの御婦人が列をなした。下手をすれば教育委員会から有害図書の指定を受けてもおかしくないような内容なのに、小学生の子を持つお母さんが嬉々としてサインをねだる姿は異様としか思えなかった。
権威の前に自らの判断を放棄するのは民主主義を危うくする。それを肝に銘じたい。
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