2015年12月8日火曜日

眉月

浅田次郎氏には一年前にも御登場願った。その時は繁体字と簡体字に関する氏の見解に疑問を持ったのだが、今回は「憑神」という作品に表れた「南天に眉月のかかった暗い晩である」という記述に疑問を呈したい。これのどこがおかしいか、お分かり頂けるだろうか。
この作家は饒舌を身上に修飾の多い人だが上記の描写はちょっと筆がすべった。しばらく読み進むと「時刻は同じ四ツ下がりで、蒸し空には眉月がかかっていた」との記述が表れ、どうやら作者は天文が全く苦手らしい事が分かる。
地球は太陽の周りを、月は地球の周りを回っているが、月が東から昇って西に沈むのは地球の自転による現象だ。一方で月が満ち欠けするのは太陽と月と地球の位置関係による。
満月の時は太陽、地球、月の順にほぼ一直線になって、月は太陽光を満身に受けて光り、地球の自転に伴い太陽が西に沈む頃、東の空に昇ってくるように見える。まさに「菜の花や月は東に日は西に」の状態だ。それから一日当たり約十二度月は東に移動し、十五日後百八十度回り新月になると、太陽、月、地球という位置関係になり月は太陽の光が逆光になって見えないが太陽と一緒に東の空から西に移動している。
さて眉月はどうか。眉に似た月というからには月齢が二か三と見るべきだろう。その時月は太陽から二三十度程度東の位置にいる。すると月は日の出から二時間程度で東の空から昇り、日中は太陽の逆光で見えないが日が沈む頃から西の空に姿を現し、日が沈んで二時間もせずに月も沈んでしまう。だから真夜中に南天に眉月が見えるなんて事は天地がひっくり返らない限りあり得ない。無論四ツ下がりにも。
次の土曜日曜は晴れていれば夕方西の空に眉月が見えるはず。たまにはゆっくり夜空を見上げては如何。

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