有刺鉄線、それが今の経済の在り方に大きな影響を与えた産物であると言ったら首を傾げる人が多いのではないだろうか。でもこの本を読むと「成程!」と思えて来る。「50-いまの経済をつくったモノ-」著者は長年フィナンシャル・タイムズ紙でコラムを連載してきた人らしい。一番の「プラウ(犂・スキ)」から五十番の「電球」まで、人類の経済活動を左右したモノを独特の切り口で取り上げ論評している。今ようやく十番「冷凍食品」を読み終えたところだが、間違いなくこの本は今年出会った本で一番面白かった中の一つに数えられるだろう。
さて有刺鉄線が発明されたのはアメリカが西部に向けて発展をしようとしている頃だった。リンカーン大統領は開発促進のためホームステッド法を制定し、未開拓の地に家を建てて五年耕作しさえすればその土地が自分のものになる、とした。だがここで問題はアメリカの西部には何キロメートルもの柵を作るだけの木材がない事だった。有刺鉄線はこの問題を解決した。それは所有と私有財産の概念を再認識させた。
そして現在。「経済のさまざまな領域で、理論上所有するものを実際に所有するための激しい闘いが繰り広げられている。(原著引用)」例えば音楽の世界。ハッカーや海賊版業者は著作権者が本来所有する楽曲を無料で配布し利益を得ようとしている。ここでは本来の所有者が所有するものを他から守るデジタル有刺鉄線が必要とされている、と著者は言う。そしてその有刺鉄線は未だ発明されていない、と。その発明はおそらく巨額の富を生むだろう。有刺鉄線の発明者グリッデンを億万長者にしたように。
以下は私見だが、いつか環境問題がこじれると、空気を囲い込む有刺鉄線までが必要になるのではないかと危惧してしまうのである。
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