2020年6月16日火曜日

藤井七段

藤井聡太七段の将棋は芸術だ、という人がいる。飯島栄治七段。容貌も仕草も語り口も実直そのもので、篤実という言葉はこの人のためにあるのではないかと思われるような人だ。その人が言うから大袈裟でもなければ衒った表現でもない。まさにその通りだと思う。
デビューから二十九連勝をするなど、一人で将棋ブームを起こしてしまった藤井七段は今最年少タイトルホルダーの記録を掛けて将棋棋聖戦の真っ最中だ。一般紙でも報道されているからご存じの方も多いだろう。名人戦や竜王戦ならともかく、棋聖戦の第一局の勝敗が一般紙で報道されるなんて今までにはなかった事だ。
藤井将棋の素晴らしさは感動を与えてくれる所にある。将棋は好きで良く見るが今までの約六十年間、感動という言葉を味わったのはたった一度しかない。第55NHK杯トーナメントで谷川九段が藤井猛九段の穴熊を粉砕した将棋。谷川九段の裸の玉が徳俵でかろうじて残し、穴熊の堅城に籠る藤井玉を討ち取った時は感動した。
しかしこの一年、藤井聡太七段の将棋を見るたびに感動する事、三度や四度ではきかない。詰みを読み切った時には危なそうに見える橋を平気で渡る、解説者が「不利になるからこの順は選ばないだろう」と言う順を何事もないかの様に選んで結局ちゃんと有利に導いてしまう、等々勝ち方の美しさは芸術と呼ぶに相応しい。
四十年前天才の名をほしいままにした谷川九段の藤井評が的を得ていた。「私が17歳のときと比べると……。野球に例えるなら、ストレートの速さではいい勝負になる。でも、球種と制球力では藤井七段にまったく敵いません。」
恐らく向こう数十年は出て来ないと思われる天才が創り出す感動を同時代の人間として経験できる幸せを是非皆様にも味わって貰いたい。

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