テニスが終わってコートから家まで歩いて帰る。
心地良く疲れた体に天から衣が降りたかのような香りがまとわりついた。
金木犀の咲く季節になったのだ。
僕は幼少の頃、曾祖母に溺愛された。
母の実家は田舎の農家。母は双子の妹として生まれた。女手も重要な労働力だった農家で、双子を育てるのは容易ではない。祖母(つまり母の母)は上の子を育てるのに精一杯で母を見る余裕はない。必然、母は曾祖母(つまり母の祖母)に育てられた。
大事に育てた孫が生んだ初めての子だとして、僕は曾祖母に溺愛されたのだ。
小学校も低学年の頃、母の実家に遊びに行くと、曾祖母はいつも着物の袂の中から糸くずだらけの飴玉を出して僕にくれた。
甘いものが貴重な時代だった。飴玉は包装紙に包まれることなく裸で売買されていた。曾祖母はそれを僕が来た時の為に大事に取っておいたのだった。
もし愛情に匂いがあるとするなら、それはきっと金木犀の匂いに違いないと思う。
曾祖母の飴思い出す金木犀
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