2023年8月29日火曜日

學而不思則罔

 ChatGPTに次に質問したのは「モーツァルトの傑作は何ですか?」という問いで、その答えは以下の通りだった。

「モーツァルトは、多くの傑作を生み出した有名な作曲家です。その中でも特に著名な傑作をいくつか挙げてみましょう。交響曲第40番(G短調、KV 550: モーツァルトの交響曲の中でも特に有名で、情熱的で豊かな旋律が特徴です。」に始まり、クラリネット協奏曲、歌劇「魔笛」、ピアノ協奏曲第21番、弦楽四重奏曲第19番、レクイエム、を列挙した。流石に満遍なく広いジャンルから曲を選んでいるが、音楽ファンならこの答えにちょっと首を傾げたくなるだろう。

40番の交響曲が傑作であるのは間違いないが、それを「情熱的で豊かな」と表現する人はまずいない筈。むしろ哀愁に満ちた哀しげな旋律に魅力を感じている人が殆どだろうから。(他にピアノ協奏曲第21番の説明には「"エリーゼのために"としても知られ」などと誤りもあるがそれは御愛嬌か)この答えを見て思うのは知識としてモーツァルトの傑作が何かを知ってはいるが、それを実際に聴いた事もなければ、心を揺さぶられた事もないのだなという事だ。機械だから仕方ないとも言えるが、時々人間でもそういう人はいる。

色々沢山本を読んでいて知識は豊富なのだが、言ってる事が殆ど本の受売りで、自分自身の意見というものがはっきりしない。「で、君はどう思うの」と聞き返したくなる事もある。ChatGPTもその類なのではないか。

論語には「学びて思わざれば即ちくらし」とある。ChatGPTはまさにそれで、あちこちから情報を搔き集めるという「学ぶ」事は得意でも、「思う」事つまり自分で感じ考え感動する事は出来ない。ChatGPTと付き合う際にはその事をしっかり肝に銘じておくべきなのだ。

2023年8月22日火曜日

忖度

 数ある日本語の中で「忖度」ほど昨今ひどい扱いを受けている言葉はないだろう。モリカケ事件以来、「忖度」は悪事の代表のような言われ方をして、ビッグモーターを巡る不祥事でも「現場の社員が幹部を忖度したのが悪い」などと言われた。

広辞苑を引くと「忖度」とは「他人の心中をおしはかること」とあり、それが悪い事である筈がない。モリカケにしろ、ビッグモーターにしろ、上司の狙いを感じ取り、その方針に沿って事を進めるのは良いが、どこかで血迷って悪事を働いてしまった事こそが悪いのであって、「忖度」に罪はない。もし上司が言外に悪事を認めむしろ強要しているようであれば、教唆犯としてその責を問うべきであろう。

「忖度は日本語の美しい表現の一つであり、社会的な意識を持つ上で重要な概念として理解されています。ただし、必要な場面で適切な判断を下すことも重要であり、全ての状況において忖度が必要なわけではありません。」こう言っているのは誰でしょう。実は今をときめくChatGPTに「忖度について教えてください」と問いかけたら右記のような答えが返ってきた。実に的を得た答えではないか。続いて「この言葉は日本独特の文化的背景に由来しており、日本社会では他人との調和を大切にする傾向があります。そのため、忖度は良い意味での気遣いや思いやりとして認識される場面もありますが、一方で個人の意見や主張を押し隠すことによる問題点も指摘されることがあります。」として「忖度」が悪い方向に働く場合の例が示された。ここまでの答えが出せるなら、確かに学校のレポートに利用してみようと言う気になるのも分かる。

ChatGPT、お主やるなと思って次の質問をしてみたが、そこで馬脚を露したように感じた。(次回に続く)

2023年8月15日火曜日

熱中症

なんとも暑くてたまらない。タオルを片手に汗を拭きながら、なんとか薄着と扇風機で乗り切ろうとするが、流石にこの暑さではエアコンに助けを求めてしまう。テレビでも積極的な水分補給とエアコンの活用を呼び掛けているが、それも程度問題ではないだろうか。

ここ数か月悩まされている腰痛の治療に整形外科を訪ねた時の事。待合室での時間が苦痛だった。待ち時間の長さもさることながら、寒くてたまらないのである。今回は診察を諦めて出直そうかと思い始めた、その時に名前を呼ばれた。診察を終え、処方箋を持って少し離れた場所にある薬局のドアを開けると、そこはもう耐えられない程の寒さだった。処方箋を渡して「外で待ちます」と言い残し、幸い日陰に止めた車の中で薬が処方されるのを待った。

冷房の効き過ぎに悩まされたのは新幹線もそうで、出張などで利用する際には上着を必ず用意したものだ。冷房の必要性は認めるが、地球の温暖化を憂え、地球にやさしくと言うのならもっと控え目の温度設定にしたらどうか。エアコンは確かに室外機の内側に向かっては冷気を提供してくれるが、外に向かっては暖房をしている事を忘れてはならない。

内科の病院なら肌を露出する事に差し障りもあろうが、そうでなければ半袖半ズボンの軽装でちょうど良いくらいの温度設定とすべきではないだろうか。放送局でも温度は相当低いらしく、男性達は長袖のワイシャツの上に長袖の上着を羽織って汗一つかかずに平然としている。

ただでさえ太陽からの輻射による暑さで参っている地球に向けて我々はこれでもかとばかりに暖房の熱風を吹きかけている。地球にやさしくなどと口だけ親切そうにしている人類を、地球は恨んでいるに違いない。地球自体が熱中症になりはしないかと心配でたまらない。


2023年8月8日火曜日

浪曲

 「はだしのゲン」が広島市の平和教育の教材から削除されるそうだ。いつかは読みたいと思いつつも未読の「はだしのゲン」がどんな内容なのかも、それを教材として問題視する意見の概要も知らないが、NHKのクローズアップ現代の報道を見る限りでは色々問題がありそうだ。

既存教材の問題点を洗い出す検討会では全く話題にされなかったのに、それを踏まえて改訂版を検討する委員会でいきなり削除が決まった経緯の不透明さや、削除を決めた委員達の歯切れの悪さが印象に残った。決定に大義名分があるのならそれを堂々と主張すれば良いのに。

事の是非はともかく、浪曲が不当に扱われている事は残念だった。はだしのゲンが教材として不適である事の一つの理由が、中にゲンが浪曲をうなるシーンがあるからだ、と言うのだ。小学生に浪曲は理解できないから、というのだが、ならば浪曲をもっと教えれば良いではないか。浪曲は落語や講談とならぶ立派な日本文化の一つなのだから。

実は最近浪曲にはまっていて、図書館でCDを借りて来ては聴いている。その音楽性もなかなかのものだと思うし、七五調で語られる箴言めいた文句も面白い。

例えば「紺屋高尾」という演目には以下の台詞があった。「女郎の誠と卵の四角、あれば晦日に月が出る」現代人向けには「あれば西から日が昇る」とでも言うべきか。太陰暦で暮らしていた人々には晦日に月が出る事はそれくらいあり得ない事だった。

太陰暦時代の常識が分かれば、明智光秀が本能寺の変を決行したのが六月一日から二日にかけての深夜であったのは隠密行動を取るのに月明りが邪魔だったからだとか、赤穂浪士が吉良邸に討ち入ったのが十二月十四日であったのは逆に月明りが欲しかったからだという事も理解できるのに。

 

2023年8月5日土曜日

27年前

 WOWOWで放映していたので、トム・クルーズの「ザ・エージェント」を久しぶりに見ました。1996年の映画との事。それから27年の月日が流れ、色んな事が変わったんだなあと思った。

まず、ノートパソコン。エンブレムの文字(ここではSatellite Proとある)がパソコンを開いた状態だと逆さになっている。閉じた状態だとこれが普通と思っていて、たしかアップルが初めて開いている状態で天地が正しくなる方向でマークを印字した時にはそれを奇異に感じた記憶がある。今はそっちが主流。



電話は固定電話もまだ健在だし、携帯電話も大小色々出て来る。一番面白かったのは、トム・クルーズが誰かに電話する際、手帳で番号を確認してダイヤルしていた事。この頃の携帯は番号を記憶する機能はなかったんだなあ・・・








2023年8月1日火曜日

上下関係

 前回紹介した「男の不作法」を読んで気になった事がある。レストランのウェーターに威張り散らす男は会社では上にヘイコラで下にはそのストレスをぶつけている。著者曰く「上に弱く、下に強い」と言うのだが、会社や軍隊なら指揮命令系統の関係で上下の秩序があるのは仕方ないとしても、一般社会までそうだと考えるのは如何なものか。まさか著者はレストランの客が上でウェーターが下だとでも思っているのか。

ウェーターが客に強い態度を取らないのはその立場が弱いからだ。客を怒らせて雇い主に損害を与えたり迷惑を掛けたりするような事態を避けるために大人しくしているだけだ。本質的にはレストランと客はサービスの売り手と買い手、一方が提供する食事サービスとそれに対する対価として支払う金銭が同価値であるという合意の基に取引をしている関係であって、両者に上下はない。もしウェーターとオーナーが同一人物なら、態度の悪い客に退去を求める事が出来るだろうし、客が退去しない場合は住居不法侵入で訴える事だって理論的には可能だ。

女性の地位向上を訴える人達は政治家や会社経営者の一定割合が女性になるべきだと主張するが、港湾の荷役労働者の一定割合が女性になるべきだとは言わない。ひょっとしてその人達は職業に上下があって、上に属する職業の一定割合に女性が進出すべきだと言っているのではあるまいか。コロナ禍ではエッセンシャル・ワーカーという言葉が流行ったが、そんな英語をわざわざ持ち出さずとも全ての職業が社会が必要とするから存在するのであって、それに上下などあろうはずもない。

強いて言えば闇バイトを指揮する反社会的組織とか、徳のない経営者が率いるブラック企業などが下と呼ばれても仕方ないかとは思うが。