前回紹介した「男の不作法」を読んで気になった事がある。レストランのウェーターに威張り散らす男は会社では上にヘイコラで下にはそのストレスをぶつけている。著者曰く「上に弱く、下に強い」と言うのだが、会社や軍隊なら指揮命令系統の関係で上下の秩序があるのは仕方ないとしても、一般社会までそうだと考えるのは如何なものか。まさか著者はレストランの客が上でウェーターが下だとでも思っているのか。
ウェーターが客に強い態度を取らないのはその立場が弱いからだ。客を怒らせて雇い主に損害を与えたり迷惑を掛けたりするような事態を避けるために大人しくしているだけだ。本質的にはレストランと客はサービスの売り手と買い手、一方が提供する食事サービスとそれに対する対価として支払う金銭が同価値であるという合意の基に取引をしている関係であって、両者に上下はない。もしウェーターとオーナーが同一人物なら、態度の悪い客に退去を求める事が出来るだろうし、客が退去しない場合は住居不法侵入で訴える事だって理論的には可能だ。
女性の地位向上を訴える人達は政治家や会社経営者の一定割合が女性になるべきだと主張するが、港湾の荷役労働者の一定割合が女性になるべきだとは言わない。ひょっとしてその人達は職業に上下があって、上に属する職業の一定割合に女性が進出すべきだと言っているのではあるまいか。コロナ禍ではエッセンシャル・ワーカーという言葉が流行ったが、そんな英語をわざわざ持ち出さずとも全ての職業が社会が必要とするから存在するのであって、それに上下などあろうはずもない。
強いて言えば闇バイトを指揮する反社会的組織とか、徳のない経営者が率いるブラック企業などが下と呼ばれても仕方ないかとは思うが。
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