イ・セドル九段が人工知能に完敗したのは、ある程度予測できた事とは言え矢張り衝撃的だった。この結果を見て私が思ったのは、カーナビの出現によって地図が役割を失ったように近い将来医者が役割(の大部分)を失うだろうという事だった。
イ・セドル九段を破ったアルファGOの最も画期的なところはコンピュータが自分で知識を作り出して行くところだ。
私が人工知能と本格的に向き合ったのは三十五年前スタンフォード大学への留学を命じられた時だ。当時人工知能は主にエキスパートシステムという名前で呼ばれ、専門家(エキスパート)の持つ知識をコンピュータに移植しようと言う試みがなされていた。私は「人工知能を施設計画に活かす方法を勉強して来い」との使命でエキスパートシステムのメッカであるスタンフォード大学へ赴いた。私が教えを受けたのはジョン・クンツと言い、彼はエキスパートシステムの父と言われたファイゲンバウムの愛弟子だった。ジョンに連れられてファイゲンバウムと直に話した経験は私の数少ない誇りとなっている。
当初コンピュータに移植すべき専門知識として選ばれたのは有機化合物の分析や病気の診断などだった。特に伝染性の血液疾患を診断するMYCINは有名で、当時の稚拙なコンピュータの能力であっても65%の正しさで診断結果を出し、並みの医者より好成績だった。
その頃は「If Thenルール」という形で知識を表現し、人間が機械に知識を教え込まなければいけなかった。しかしアルファGOに代表されるように最近のシステムは沢山のサンプルから特徴量を自分で見つけ出し、そこから知識を生み出して行く。沢山の症例を提示して病気の診断をさせる事は恐らく碁を打つより簡単だ。紙面が尽きた。続きは次号に。
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